このエッセイは、最初はクレヨンハウスの月刊「音楽広場」に書いたもので、現在は「リトルドッグプレス」のホームページに連載しています。それをこちらでも見られるようにしました。今までおもちゃのついて書かれたものは多く『白木の温もりの手作りのまごころ』のように情に流れるか『○○力を育てるにはこういうおもちゃがいい』式のガイドブックです。そうではなく、きちんとしたおもちゃ批評を確立したいと思っています。
http://www.littledogpress.com/
ここは、作品を作る過程で、また、日常の中で思いついたことを、書きとめているページです。また、急ぎの情報などもここで紹介します。
雨。
朝の10時から、小淵沢でひさしぶりのものがたりライブを
近くのペンション・たんぽぽで
やらせてもらった。
ここはずっと、おつきゆきえさんの宮沢賢治の朗読会を
開いてきたところ。
ぼくはやらせてもらうのは初めて。
 
 お茶とお菓子付きで500円。
平日の午前中だから、大人が多いだろうという読みは当然で
はたしてそうなった。
いっぱいの43人。
地元とはいえ、半分以上はぼくの話は初めてという人。
知り合いの顔が見えると、ついつい、また同じ話を聞かせては悪いという思いから
つい、ふだんやらない話を語る癖があるが、
この頃、プークの制作部や親しい人からは
「そんなことはない。おもしろい話は何回聞いてもおもしろいのだし、
初めての人をものがたりファンにするのが大事だ。
定番の話を何回でもやれ」と口を酸っぱくして言われている。
だもんで、物おじせずに「ひつじ」から入る。

でも、その後はいつものようにその場の空気を読みながら話を選び、やっぱり
当初は考えてもいなかった「日本海美人ひとつおき説のわけ」に行きついてしまう。
 大人の会でしかできないので、これはこれでいいか。

そのあと、テーブルをだしてお茶会になり、解散。
朝の強い雨が、昼過ぎにはきれいにあがった。
スタッフのみなさんと近くのトルコ料理の店でランチ。
楽しい日になった。
お昼に博多駅から電車に10分ほど乗って長者原へ。
駅前にある粕屋町立図書館へ。
初めておじゃまする町。

待っていてくれた館長さんや司書さんとお昼をいただき、
2時からものがたりライブ。
大人子どもあわせて70人くらい。
ひさしぶりに「八ヶ岳の霧」をする。
これはむしろ、大人の方がおもしろがる話なのだが
父親や母親が笑うさまを見るのは子どもにとって
嬉しいことだと思うので、
ぼくの中では「大人用」「子ども用」「小さい子用」とは別に
「家族連れ用」として分類してある話。
最後に動物競馬を入れて3時半終了。

いったん、博多駅前のホテルに帰る。
で、7時に改めて博多駅前の居酒屋へ。
館長さんや司書さんが博多まで出てきてくれて
改めて打ち上げ。
昨夜に続き、楽しい一夜になる。
 福岡県もずいぶんあちこちで呼んでもらえるようになった。
ありがたいこと。
松本空港まで車で行き、午後の飛行機で福岡空港へ。
博多駅からJRで春日へ。
歩いて子どもの本の専門店エルマーへ。6時。

今日は土曜日で午後にエルマーの2階で
こがようこさんのお話会があった。
こがさんとは昨年の秋に横浜で
君川みち子さんも含めて、3人の語りの会をやったばかり。

で、こがさんとエルマーの前園さんと
地元春日市の司書さんたちと大勢で
近くの中華料理の店へ。
宴席となる。

終って10時近く、南福岡駅前のホテルまで送っていただく。
実は今回はぎりぎりまでホテルがまったく取れなくてけっこう大変だった。
原因は今夜、マリンメッセ福岡でNEWSのコンサート、ヤフオクドームで
ワン オク ロックのコンサートがあるから。
 はっきり言って、ぼくはまったく知らない人たちなのだけれど
とにかく、そのために日本中からそれぞれのファンがつめかけていて、
ホテルは福岡市内はもとより、北九州市から久留米市あたりまで
すべて早くから満員。
JRはそのために臨時の特急を夜中に増発するという
たいそうな経済効果になっているらしい。
 で、さすがにこまって、エルマーの前園さんにこぼしたら
いつも使う穴場の宿ということで、電話一本で一発でとってくれた。
ほんとに力強いかぎり。
なにも予定がない日は
朝9時に近所のジムに行くというのが、すっかりあたりまえになった。
軽い筋肉痛がいつもあるのが気持ちいい状態。

日中はパソコンに向かって、物書き。
近々、このホームページで
「語り」についてのエッセイを
連載して行こうと思う。
ステージに立って大人や子どもに向かって
しゃべるとき、どんなことを考えているか、
どういうことに気をつかっているか、
そしてそれが見事に失敗した話とか。
そのメモをとる。
タイトルは「よい語り わるい語り」。
このタイトルは
「よい語り」=「うまい語り」だと思っている人が多いので
あえて挑発的に考えた。
つまらないのに技術的にうまいのは、
「語りとはそういうものだ」と子どもたちにあきらめさせてしまう点で
むしろわるい語りだ。
では「よい語りとは?」というふうに
話をくみたてていきたい。
これは第一弾をホームペーじにアップしたら
お知らせするのでお楽しみに。

夕方から、おとなりの一家と近所のアイリッシュパブへ。
おとなりさんは夫婦でレンタカーでアメリカを横断したり、
冒険的な人たちなので、そんな話は聞いていてとても楽しい。

明日は松本から飛行機で福岡へ行く。
天気がよさそうなので眼下の山の景色が楽しみ。
東京日帰り。
午前中、五反田の山村歯科。
待合室に「描かれた歯痛」という本が置いてあって
興味津々で見る。
昔の人は歯痛の原因がわからないから、
口の中にいる小人が寝ている間に出てきて、
ツルハシで歯をこわすのだとでも考えざるを
えなかったのだろう。
いや、痛くなく治療する技術が進んだ
現代の患者でよかった。

午後、新宿で封切りされたばかりの
インド映画「ダンガル きっと、強くなる」を見る。
「きっとうまくいく」や「PK」のアーミル・カーンの映画だから
絶対おもしろいのはわかっていたが、はたしてたくさん笑い、何回か泣かされた。
レスリングが強くて、息子を育ててレスリングで金メダルをとらせるのが
夢だった男が主人公。
 ところが生まれてきたのは女ばかり4人。
そこで女子レスラーを育てるという、巨人の星のような話。
あんなに細かったアーミルカーンが
筋肉隆々の身体を作って撮影に入っている。さすが。

だが、インドは日本以上にしきたりと伝統の国。
女子がサリー以外の物を着たり、短髪にするだけで
どうかしていると思われる国。
 女子は家事ができて、さっさと嫁に行けばいいと
思われている国なので、周囲の理解はまったくない。
 それでもめげずに金メダルをめざす。
レスリングシーンが迫力があって、とても演技とは思えない。
強い男の子と必死で戦う女の子に肩入れして応援してしまう。
笑いながらも、涙がとまらなくてこまった。
これはお勧めです。

そのあと、こだぬき企画のTさんと
プークのものがたりライブのうちあわせ。
チラシの文言など。
今回は、とんち話をメインにすえる。
日本と海外の、いいとんち話を紹介するつもり。
でも、ぼくの「びんぼうくじをひ」も「ねず天パーティー」も
とんち話だからどこかで入れよう。

夜のあずさで戻る。
来週の25日の水曜日は
ひさしぶりに小淵沢でものがたりライブを
させてもらうことになっている。
場所はぺんしょん・たんぽぽ。
ずっと、おつきゆきえさんが
宮沢賢治の朗読会をやってきたところ。

今回は平日の午前中という設定なので
申し込みは大人ばかりのよう。
地元だから知り合いも多い。

初めての土地で初めての人の前でするのと
地元で知り合いの前でするのとでは
やはり、趣きが違う。
どんなに聖人君子ぶっても、最初から見破られている。
でも、八ヶ岳ものでも背景を説明する必要がないし、
共有する前提が多いからスピーディーにも行けるはず。
楽しみだ。
次のミルキーのためにメモをとっている。
編集者もいろいろ考えてくれていて、
「20巻を越えたし、いつもと違う趣向はどうか」と言ってきている。

で、今考えているのはスピンオフ。
ミルキー以外の登場人物を主役にして
話を進めるというもの。
もちろん、ミルキーもだすのだけれど。
で、誰を主役に持ってくるか?
誰でもよさそうで誰でもよくない。
さてさて。
「真実を証言する」証人喚問で
「刑事訴追の恐れがあるから言えません…」で全部かわして
よしとする。すごいなあ。

愛媛県の文書に記録されているものを
「記憶にない」でかわせると思っている。
ふつう、記憶は忘れるものだからそのために文書にしておくわけで、
記憶と記録では記録の方が優先されるだろうに。
これも、駄々っ子のようでいい度胸だ。

森友学園の用地売買の大幅な値引き理由も、もう説明がつかないだろう。
売る側の国の方が安くする理由をさがしているように見えるし。

近々の次官のセクハラ問題は次元が違うから置くとしても
なんだかバケツの底が抜けたようだ。
かってのウォーターゲート事件はそれでもまだ
ニクソン政権が民主党の情報を手に入れたくて起こした
政治がらみの事件だったが
今回の日本のは完全に、この国のトップが
知り合いの便宜もしくは利益のためにはかり、
官僚がそれを止めるのでなく、諾々としたがって
公文書を書きなおしたという構図になる。
志が低すぎる。

大臣が悪いのはまだ楽。
替えればいいのだから。
だが、官僚機構がだめというときには
どうすればいいのだろう?
日記欄の一新にあわせて
フォトギャラリーももっと活用しようということで
長崎歩き旅のスナップを何枚か載せました。
スマホのおかげ。
数人の知人友人からホームページの日記が
4月に入ってから、全然
書かれてないよと、連絡をいただく。
ありがたいこと。

はて、自分は書いているつもりなので
おかしいなと調べてもらったら、
この4月から書き込み欄のアドレスが
変わっていたのだった。
 管理人さんにその説明はうけていたのに
平然と古い方に書きこんでいた。
ぼくがよくわかっていなかったのだ。

で、新しくなって、字が大きくくっきりしたはず。
読んでいる側にはどうでもいいことだけれど、
書き込み欄が広くなって書きやすくなった。
よかったよかった。
ただし、一度書いた長崎への歩き旅を
もう一度、ドドドと書きなおすことになった。
ちょっと大変。
昨日はよく寝た。
足の裏の痛みもひいて、今日からまた近くのジムに行く。
標高が高い、うちのあたりでもようやっと桜がさきだした。
八ヶ岳の雪もだいぶ少なくなった。
うちでテレビを見ることはないけれど、旅先では
ホテルの部屋にあるので、つい、つけてしまう。
今回の旅の間のテレビの話題はずっと、
すもうの巡業で起きた事件だった。

巡業先の市長さんがあいさつのために土俵に上がったところで
突然倒れた。
 数人の男たちがあがったが、どうすることもできない。
すると看護師の女性があがって心臓マッサージを開始した。
そこに「女性は土俵からおりてください」とアナウンスが流れたという事件。
すべての女性が憤激するのは当然だと思う。
なにも、そこで男に交じってすもうを取らせろと言っているのではないのだし。
「日本は女性を差別する国だ」というニュースが
世界中に流れたらしい。

で、もちろん女性差別なのだけれど、問題の本質は
そこではないように思う。
 自分でものごとを考えるというトレーニングがされてこないまま、
大人になってしまう人があまりに多い、この国という問題。
 アナウンスした人だって「人命としきたりとどっちが大事だ?」と
きかれれば、それは人命と答えたと思う。
 緊急順不同ということはあるのだ。
でも、上から「放送しろ」といわれて、なにも考えずに放送してしまったのだろう。
つまり、自分の仕事と責任に無自覚なのだ。

もうひとつは「しきたり、しきたり」というけれど
「良いしきたりだから守る」というなら、
同時に「悪いしきたりは変える」という義務も発生するということ。
でなければ、歴史はよい方向に進んでいかない。
 「悪いと承知しつつ、しきたりだから守る」というのはっきり言って
「私はなにも考えていません。からっぽです」といっているのと同じ。
自分は考えずに、しきたりのせいにしてしまうのはだめ。
「前例がないのでだめです」という言い方と同じだ。

それにしても、相撲の世界はどうしてここまでだめになったんだろう?
野球もサッカーもテレビ中継がなくても
毎試合何万人、何千人のお客を集めているのに
すもうはNHKが放送しなくなったら、それで終わりではないだろうか。
スターもいないし、話題になるのは内紛ばかりだし。
本来、とても華やかで、いい世界で好きなのだけれど。
博多駅の駅ビルの上で
「アート・アクアリウム展」というのをやっている。
簡単に言うと、珍しい金魚の展示会なのだけれど、見せ方がアート。
いわゆる学術的な解説は一切なく、
明かりを落としたホールの中で、さまざまな照明や器で見せる。
すると確かに、金魚は泳ぐ宝石と思えてくる。
金魚の復権でおもしろかった。

午後の新幹線で名古屋へ。
夕方の特急しなので塩尻へ。
各駅にのりかえて小淵沢の家に
夜9時に帰りつく。
終った終わった。
朝、ホテルから歩いて出島へ。
ここは、かっての日本の海外への窓。
江戸時代から幕末まで、進取の精神に富んだ若者たちが
日本中から歩いてきたところ。

中は当時の建物をいくつも復元している。
ゆっくりひとまわり。
おみやげ売り場も。
今まで、どこに行っても、歩き旅で重さを増やすことは考えられないから
みやげもの売り場は関係なかったが、今日はオーケーだ。
そうはいっても、つい習慣で重いものは敬遠してしまう。
珈琲を買う。
出島は外国人が日本に初めて珈琲を持ち込んだところので
出島珈琲なるものが売られている。

長崎は好きな町で、仕事とは別に何回も来ているから、もういいか。
まだ、行ったことがない軍艦島はまた次回の旅に
とっておくことにして、長崎駅から博多行きの特急かもめに乗り込む。
諫早、肥前鹿島、佐賀、鳥栖と、今回歩いた街を次々に過ぎて
ちょうど二時間で博多に着いた。
四年越しの日本橋からの歩き旅もいよいよ大詰め。
あと13キロだ。
ゆっくり歩いてもお昼には着くはず。

朝、諫早から電車で肥前古賀へ。
ここは山の上の無人駅で国道へはいきなりの急な下り。
諫早と長崎はどちらも海に面しているが、全然違う海なので
あいだには分水嶺がある。
そこを越えなければならない。
いったん下りてからその最後の坂をまた登る。
長崎は行き止まりの県庁所在地だから、車はそこに向かってビュンビュン通る。
その横をせっせと登る。
佐賀ではほとんどなかった急な坂だ。
峠下を長いトンネルで抜け、蛍茶屋に下り立つ。
ここは長崎の市電の終点駅でチンチン電車がとまっていた。

もう、幕末の若者たちがめざしたシーボルト記念館は近い。と、シーボルト通りを歩いて行ったら
なんと月曜日で休館だった。
江戸からはるばるめざしてきて、定休日にぶつかるとは…
まあ、以前に入ったことがあるからいいのだけれど。

近くの食堂で皿うどんを食べ、長崎歴史博物館へ。
ここはやっていてくれた。
どこに行っても歴史博物館は入る。
 ただ、このところ、自分の中の明治維新観というべきものが変化していて
明治維新を手放しで礼讃できない気分がある。
もしかしたら、イスラム国が勝ってしまったということだったのかもしれない。
理屈なんかどうでもよく、ただ若さと力で。
そうなれば記録はいくらでも都合よく改竄できるし、
みんな死んでしまえば、その記録だけが真実として残るのだから。
 長州が会津でやったような下品な暴虐には品も格調も感じないからなあ。
というわけで、この頃は坂本竜馬など見ても、ほんとはどうだったの?
なんて、つい、言いたくなってしまう。

駅前のホテルに入る。
最終ゴールの出島は明日行こう。
長崎と諫早の間は25キロ。
一日で行けるが、その前に昨日の続きで長里から諫早までの残り12キロを歩かねばならない。
すると長崎着は明日まわしになる。
それなら今夜も諫早泊まりにすれば、大きな荷物は部屋に置いて空身で歩ける。
と考えて、そういうプランにする。

晴れ。
朝の電車で長里に戻る。
降りたのはぼくだけ。
改めて諫早に向けて歩く。
諫早は長崎県の交通の要で、駅をまんなかに鉄道が四方に伸びている。
だが、それは線路が町を分断していることで縦横の道路網は作りにくい。
道は変に曲がったり、上ったり下がったりしながら、町の真ん中に近づいていく。

お昼近くにホテルの前に戻る。
駅近くの食堂で、長崎名物皿うどんにする。
毎度のことだが、長崎ではちゃんぽんより皿うどんの方をいつも食べている。

食堂がずいぶん混んでいると思ったら、今日は日曜日でJリーグの試合がある。
諫早に本拠を置くバンバーレン長崎は今年、ヴァンフォーレ甲府といれかわりで
J1に昇格した。
 その長崎が今日はFC東京とホームで戦うということで
サポーターが大勢集まってきたのだ。
 ちょっと観戦していきたいとも思ったがナイターならともかく
昼はやっぱりあるかないとなあ。

諫早と長崎の間は峠になっている。
その峠まで車がビュンビュン行きかう車道の横を13キロ歩き、肥前古賀の駅でまた
電車で諫早に戻る。
 戻ってきて4時過ぎ。
サッカーも終わったようで、ファンたちがみな、下を向いて歩いている。
5対2の完敗。長崎はまだホームで1勝もできていないとのこと。がんばれ。

まだ早いので、島原鉄道に二駅乗って木のおもちゃと絵本の店「ブレーメン」へ。
ここは、ずいぶん昔から、ぼくのおはなしめいろのポスターを注文してくれている店。
せっかくだからご挨拶に。
おじゃまするのは初めてだし、突然行ったにもかかわらず、
とても喜ばれ、歓迎してもらう。よかった。

また、駅前に戻り、夕飯はおでん定食。
明日はいよいよゴールの長崎に入ると思うと、ときめくものがある。
晴れ。
朝、二両だけのワンマン電車に乗って肥前鹿島の駅へもう一度行く。
海沿いの一本道を歩き出す。
有明海の対岸に島原半島があり、雲仙普賢岳がドーンと見える。
新山の部分はまだ、そこだけ色が違うからすぐわかる。

有明海は干満の差が激しく、引き潮の時ははるか沖まで干潟になる。
今、ちょうどそう。
「月の引力が見える」をキャッチフレーズにしている町もある。

今日はずっと小さな町ばかりで宿がない。
といって、鹿島から宿がある諫早までは40キロあって、一日では行かれない。
そこで、お昼を食べた後は
適当な駅で切り上げて電車で諫早に行き、明日また戻って、続きを歩く計画。
ところが長崎本線は特急はひんぱんに通るものの各駅電車は
極端に本数が少ない。
なんと、ぼくが歩いているエリアでは午後2時の次は6時までない!
というわけで、時計をにらみ、距離を計算しながら
もう一駅、もう一駅と海沿いを歩く。
とちゅうで雨になり、かさをさす。
6時前に長里駅着。無人駅。
切符売り場もなく、心細いったらない。
実際はバスのように、乗ってすぐ整理券をとればいいのだけれど。
1人でホームでポツンと待っていると、トンネルを抜けて
ワンマン電車がやってきて拾ってくれた。
 
諫早駅前のホテルに入る。
夕飯は駅前の食堂の焼き魚定食。
今日は28キロ歩いた。
 
足が脹れてきた。
太ももの前側とふくらはぎと足の裏がみんな痛い。
今日は朝から雨だし、明日になれば回復するとの予報なので
一日休みを入れることにする。

といって歩きまわってはなんにもならない。
近くの映画館で映画を一本見る。
無条件に楽しいのがいいので「ジュマンジ」にする。

そのあとは、まだ行ったことがない大隈重信記念館だけ寄ってみる。
佐賀県は長州・薩摩と違って、明治維新の主役になりそこねた県。
その佐賀の一番の大物は江藤新平と大隈重信だろうか。
後年、暴漢に爆弾を投げつけられて足を切断し、義足となるが
その義足が展示してあった。
今日はこれだけ。
あとは読書して早めに休む。
佐賀から長崎に行くにはいくつかルートがある。
有明海沿いに行くルート。
武雄・嬉野温泉から西海沿いに行くルート。
さらにハウステンボスをへて西海の向こう側をまわっていくルート。
大事なのは、いい具合に適当な距離で宿があるかどうか。
で、スマホを使いながら検討して、有明海沿いに決める。
このルートは長崎本線と並行しているので
いざとなったら電車を使って宿に戻れるから。

今日も暑い日。Tシャツ一枚。
佐賀県の南部は平坦で、海とあまり高さがかわらない。
ムツゴロウで有名な干拓地が続き、泥の匂いがする。
そのなんにもないあたりに車道が一本あって、ペタペタ歩く。
ときどきコンビニが現れてトイレを借りてコーヒーを飲むのが
唯一のアクセント。

お昼はドライバー用の食堂で、くちぞこ定食というのをいただく。
くちぞこは有明海でとれる魚で、ヒラメを細くしたような形。
煮つけででてきた。
味も淡白なヒラメ。

さらに一本道を進み、夕方、鹿島の町に入る。30キロ歩いた。
鹿島のホテルは満室で取れなかったので、電車で佐賀に戻らねばならない。
各駅の電車の本数が少ないのでジョイフルでお茶して時間つぶしをし、
一冊だけ持ってきた滝口康彦の文庫本を読む。
「一命」とか「拝領妻始末」とか、何回読んでもやるせない。
佐賀に戻り、夕飯はとんこつラーメン。
晴れ。暑い日になる。
半袖のTシャツ一枚で十分。
鳥栖から西に向かう長い一本道の車道を歩き出す。
幸い、坂はほとんどない。
単調なだけ。
10数キロ歩いたところで吉野ヶ里に着く。
道沿いでロスもなく、遺跡に寄っていくことにする。
広々して気持ちがいい。
来たのは10年以上前だが、
ずいぶん復元された建物が増えている。
ここは邪馬台国九州説をとる人にとっては、最大の候補地。
田植え前の田んぼには、レンゲが一面に咲いている。
春休みで家族連れも多い。

ここから佐賀駅まではあと11キロ。
お昼をガストで食べて、また歩き出す。
どうしても軽快に歩けるのは午前中で、
お昼を食べてしまうとペースが落ちる。
食べて体が重くなるからか、足が歩かない楽さになれてしまうからか。
だからなるべく昼食を遅い時間にしたいのだが、そうそううまい具合に
ちょうどいい距離でレストランが出てくるわけではない。
 スマホにレストランやコンビニの位置が出るので、
前もって予測がつくのが、今年からの強みだけれど。
 ともあれ、昼食は歩いている時間の最大のイベントで楽しみだ。

なんとなく家が増えてきて、佐賀のはずれの住宅街というあたりで雨になり、
いそいで傘をさして佐賀駅まで歩く。
ホテルは駅前。
去年まではめざす町に着くと、とりあえずホテルをさがして
「今日の空きはありますか」とドキドキしながら訊いていた。
それで泊まれればよし、満室と言われるとほんとに力が抜け、
その状態で、さて、どうしようと考えたものだが
今年は昼の間にスマホで検索して夕方の予定到着地の宿をさがし、
予約することができてしまう。
絶叫したいくらい楽だ。
今日は27キロ歩いた。
今年は桜が早く、九州ではもう盛りを過ぎている。
朝も博多駅前から歩き出す。
今年、今までと大きく違うのは、ついにスマホを持った点。
毎年、道をまちがえたり、不安になりながら歩くことはあった。
地図に細い道まで書いてなかったり、自分の居場所を
勘違いしていたり、道路が変わっていたり、理由はいろいろだが、
車なら2キロ行ってからまちがいに気付いても、軽い気持ちで引き返せばいいだけだが
歩きでの2キロは30分にあたる。
ひきかえしたら1時間のロスだ。体力も減るし、気分も滅入る。
第一、暗くなるまでに宿に着けなくなる。
だから、早めに通行人に道をきくが、それは町中に限られる。
いなかの国道に通行人などいない。
たまに車が通るだけだ。
だから、ほんとうに道だけはまちがえたくない。

でも、今回は大丈夫そうだ。
その対策として先月スマホを買った。
マップ機能を使って、目的地をタップすると、地図上に瞬時に道が出てくる。
「博多から鳥栖まで30キロを徒歩で」と言ったら、
人間なら「そんなアホな」と笑うだろうが、スマホはそんな突っ込みはせずに
カラーで道を示してくれる。
しかもアップにしてくれたりする。
 地図を読む旅の楽しさは十分に知っているつもりだが、
それにしてもこの便利さと楽ちんさはどうだ。
溺れないようにしないと。
でも、利用できるだけ利用しよう。

まず、線路沿いに南福岡駅前まで歩き、10時に西鉄・春日原駅前の
子どもの本の専門店エルマーに顔をだす。
うまい具合に店主の前園さんがいて、突然の訪問を喜んでくれる。
 「これから鳥栖まで歩いて行く」というと
「それなら車で送る」と親切に言ってくれる。
いや、それでは意味がないんだって。

今月は22日に福岡県の粕屋町の図書館でものがたりライブをさせてもらうことになっている。
エルマーさんはそのとき、後ろで本を売ってくれることになっているので
その時、また会える。
で、てくてく歩きだし、スマホのいうとおりに、車が通れそうもない細い路地から
国道3号線に出て、あとは車道横の歩道をひたすら南下。
 途中、ガストで昼食。
小さな食堂だと食べ終わったらすぐに出て行かないと変に思われるが、
ファミレスはドリンクバーをつければ、いくら休んでいてもいいのが助かる。

鳥栖が近づいてくる。
鳥栖は交通の要衝で鉄道も交差すれば高速も交差している。
それはいいが、インターやジャンクションがあると、取り付き道路が大きな円を描くので
歩道は相当の遠回りをしいられる。
これがいやだ。
やがて佐賀県に入る。
夕方、鳥栖駅前のビジネスホテルに入る。
今日は30キロ歩いた。
2014年の4月に友人たちに送られて、桜満開の中を
お江戸日本橋を出立して、旧東海道をてくてくと箱根を越えて
浜名湖を渡って、伊勢神宮まで歩いた。
2015年の4月にはその続きで、四日市の追分から鈴鹿峠を越えて
京の三条大橋にいたり、さらに西国街道を岡山まで行き、四国に渡って
讃岐の金毘羅様に詣でた。
2016年の4月には岡山からさらに西へ向かい、
岩国の錦帯橋まで行った。
ここで、身内に不幸があり、北海道に飛んで行った。
2017年の4月は岩国から始めて、瀬戸内海沿いに壇ノ浦まで行き、
関門海峡を地下トンネルで渡って九州に上陸し、博多の駅前に達した。
で、今年は5年目。
さらに西の長崎をめざす。
ほんとうは鹿児島をゴールにすることも考えた。
距離から言えば鹿児島だ。
でも、歴史的に見れば、江戸からめざすべきは長崎だと思う。
かって進取の精神に富んだ若者はみな、世界の知識を求めて長崎をめざした。
みんな自分の足で。
というわけで、ぼくも長崎をめざそうと思う。