一昨日松岡享子さん、昨日上橋菜穂子さんと続けて
話を聞かせてもらって、とてもいい刺激になった。
松岡さんの仕事は
たとえば「グリムのむかしばなし」がそうなように、
山にたとえるならふもとでの仕事で
これからものがたりの山に登ろうという大勢の子どもたちがつどう場所だ。
まだ読むことの困難はそれほどない。
だが、子どもがこういう場所をうろうろするのは
それ自体がとても楽しいことであると同時に
もっと高いものがたりの山に登るためのトレーニングにもなっている。
そして上橋さんの方は、みんなが上りたがる山のひとつの頂きだ。
登ったら見晴らしもよく、すばらしく楽しいけれど、
やはり、今までまったく本を読んだことのない子が
いきなり登れて見られる景色ではない。
そう例えてみて、自分の仕事をふりかえると、
ああ、途中の登山道なんだなと思い至る。
人生で読んだ本の最高が上橋さんの本と言う人はいるかもしれないが
人生最高の読書体験がミルキーという人はいないだろう。
でも、ぼくのあんな本でもときどき司書さんやわかいおかあさんから
「おかげで子どもが本を読むようになりました」と感謝されたりする。
それまで本にあまり、ふれてこなかった子が急に登りたくなる
バリエーションルートでもあり、また大勢の子が
あまり頭を使わず、楽に上れる登山道の途中と思う。
でも、ミルキーをはじめ、たくさんの本を体験していった子が
はじめて、八合目より上にある「守り人」の登山口にたどりつけるのだ。
そうか、自分の本は山の五合目あたりの、まだまだ先の長いあたりを
わりに楽に通過できるようなルートを担っているのか…と
考えたら、いい見取り図ができた気がした。
それぞれの書き手がそれぞれの得意分野で
ものがたりという山脈を支える仕事をしているということだ。