耳なし芳一

早朝、まだ暗いうちに宿の露天風呂へ。
目の前の浅間山は今日は雲の中。
他の客はおらず、聞こえるのは鳥の声だけで無念無想の境地。

今年はおばけ話の新作として「耳なし芳一」をするつもり。
この話は小泉八雲のが有名だが、あれはもともとあった説話をもとに
小泉八雲が書いた話だから、それを気にせず誰が自分流に語ってもいい。

 それに書いた話と語る話はおのずから違う。
たとえば、この話のひとつの肝は目の見えない芳一のところに近づいて来る
よろい武者の足音のはずだ。
 本では出てこないが、語りならここは「牡丹燈篭」のカランコロンの
下駄の音よろしく、「来るぞ来るぞ、なにか不吉なものが来るぞ」と
聞き手を不安に誘い込まなければおもしろくない。
実は先代の林家正蔵の「耳なし芳一」もCDで聞いたが
ただ
すじを語っているだけで、申し訳ないが工夫を感じなかった。

 風呂から出て、小泉八雲が説明できていない不合理な点を書きだした。
たとえば「なぜ、和尚さんは芳一を寺から逃がそうとしなかったのか」
「なぜ、体に経文を書くなどという妙なことをしたのか」
「なぜ、耳だけ書き忘れたのか」
そういうことに納得のいく解釈をして
自分なりの「耳なし芳一」にしてみたいと思う。

プークのどこかの日に、会場を暗くして語ります。
おばけ話は今年はたぶん、これひとつ。
とんち話とは別に、今年の目玉ということでお楽しみに。

宿を出て小淵沢の家へ。
夕方、草刈りをする。