ものがたりライブ7デイズ 5日目

あいかわらず暑い日。
9時半にゲストの清水真砂子さんが到着。
清水さんは静岡県の掛川在住なので、早朝の新幹線で来てくれた。

清水さんは長年、青山短大の教授をつとめ、ぼくは清水さんに誘われて
青短で子ども学科の講師を務めるようになった経緯がある。
 それから10年、ぼくはいまだに毎年9月に青山で集中講義をやっている。
清水さんは日本の児童書批評の世界でひろく知られた存在。
しかし、「よい子のみなさん、こんにちはー」という甘ったるい
読書運動とは一線も二線も画しているので、「一方の雄」という言い方が
ぴったり来るだろうか。
 その文は単なる書評を越えて人生論とも幸福論とも読めて、ファンも多い。

ただし、今回は子どもも会場にいるし、時間も短いし、さて、どんなことを
してくれるのだろう? と思っていたら
午前の部はなぞなぞをやってくれた。
 本から「世界のなぞなぞ」を出題して
客席の子どもたちに考えてもらいながら
そのなぞなぞにうんちくをかたむけるというステージ。
新しい形だった。
ただし、20分でお願いしたのが30分に伸びた。
 ぼくの方で後半にするつもりでいた話を変えて
終了時間の帳尻をあわせた。
 おおざっぱにだが、自分の持っているレパートリーの所要時間は
5分きざみで頭に入っているのできりかえられる。

ちなみに終了時間を守るのは主催者の責務だ。
学校ではチャイムが鳴ったら、
現実にひきもどされて話のクライマックスがぶちこわしになるし、
どんなにおもしろくても休み時間になれば
子どもたちはそわそわしだす。

今日のような会でも、遠くから来ている人は電車の時間があるし、
このあと予定がある人もいるし、
お昼を予約している人もいるし、
家族連れだとラッシュになる前に帰宅したいとか、
夫が帰る前に戻りたいとかいろいろ算段がある。
で、みんながそういう予定が立てやすいよう、
いいかえると、それ以上、他人の人生にくいこんでじゃましないよう、
「今回は90分でやろう」ときめたら、それをチラシの段階から書いている。
学校よりはずいぶん融通がきくとしても、伸ばしていいのは
せいぜい5分~最大10分までだろう。

で、午後の部。
清水さんが長くしゃべるれるよう
最初のぼくの話は、同じ八ヶ岳物でも短めの「さんびきのお医者さん」にする。
て、そのあとの清水さんは自分が好きな絵本を持参して
それを開き読みし、その本について語っていく。
その話は深く、なるほどなあとうなづかされるところが多い。
新しいことに気付けた気がして、嬉しくなって、自然に笑みもこぼれる。
だが、それは清水ファンにはたまらない展開だが
だんだんこちらはドキドキしてきた。
予定時間を過ぎても終わらない!
午前の部よりもさらに長い。
 一番前の席から時間を書いた紙をだすタイムキーパーも
全体の進行を見ている制作部のメンバーも、もちろん、ぼくもみんなドキドキ。
結局、清水さんが熱い拍手のうちにおりたとき、ぼくの残り時間はあと20分だった。

ここで、ぼくの選択肢はふたつ。
時間に合わせて軽い話をして終わりにするか、伸びるのを承知で長い話をするか。
ステージにあがりながら考える。
で、掟破りだが、腹をくくって長編「耳なし芳一」を始める。
というのも、今日は清水さんのファンも来ているが、
ぼくのものがたりを聞きにきてくれた人も大勢いる。
話を楽しみにしてきた子どももいる。
 そういう人たちにぼくが軽い話を合計ふたつしただけでは
「なーんだ」になってしまうからだ。
 とにかく最後は、ものがたりに聞き入ってもらい、
「ものがたりを聞くのはおもしろい。また聞きたい」と
ならなければ、この会の目的は達せられない。

で、せっせと語り、そのあとの解説も入れ、
20分押しで全体を終えた。
 アンケートでも時間が伸びたことへのクレームはなかった。
でも、あとで制作部のみなさんからは強くおこられた。
当然だ。
制作部はぼくと清水さんの両方におこりたいのだろうけれど、
ゲストにおこるわけにもいかず(また清水さんの話自体はとてもよくて好評なので)、
まとめてぼくがおこられた。
しょうがないよなあ。
この日記はプリントアウトして清水さんに送って
いっしょに叱られてもらおう。
 清水さんも若い母親たちから叱られることもあまりないだろうから
きっと受け入れてくれるだろう。