井出孫六の「アトラス伝説」と、
その中に入っている「非英雄伝」を読み終える。
もう40年も前に出版された本を古本屋で買ったので。
「非英雄伝」は野口英世の話。
野口英世はお札にもなっている立志伝中のスターだが
その実像はどうだったのか。
「手のケガや貧乏を克服して」という言い方で、じょうずに
持ち上げる人がいた中で、若き野口英世に請われるままに学費を送り続ける
郷里の友人もいた。
その金の大半を野口英世は放蕩に使い、返さずに踏み倒してしまうのだけれど。
で、世間は野口英世の後年の成功を見て、前半のひどい話はみんなで
もみ消して英雄化してしまう。
野口英世は一筋縄でいかない、そうとう癖のある人で、
立派な業績を残したにしろ、お札になる人とはぼくには思えない。
なのに、日本の戦前の英雄は
非の打ちどころのない人物でなければならなかった。
そのため、よぶんなところは消してしまった。
ぼくには金や出世や女にだめな人物が、一方ではすばらしい仕事もしていると
いう二重性のほうが、よほど人間的に見えるのだけれど。