ワンダ・ガアグのグリム

朝、東京から泊まりに来ている姪の子どもたちにせがまれ、
7時からボードゲームにつきあわされる。
屈託ない、いい子たちで楽しい。

そのみんながお昼前にひきあげ、
午後は茅野の今井書店へ。
今井書店は毎年夏の終わりに子どもの本やものがたりについてのセミナーを
開いている。それに参加。

第一部は福音館の「こどものとも年少版」の編集者の
谷口高浩さんが政策の裏話を語る。
ぼくは「こどものとも」は、おつきあいがないが
「かがくのとも」を一冊やらせてもらったことがある。
ほんとに執念の編集で、微妙な手直しをくりかえし、
何年もかけて一冊作った、あの当時を思いだした。
でも、その時は編集者のたびかさなる提案と直しの注文に
うんざりするのだが、あとになってみれば、やっぱり
たいていは直した方がよくなっていた。
やっぱり、勢いだけで作ってしまった本はベストセラーには
なれるかもしれないが、福音館のめざすロングセラーには
なりえないと悟ったのだった。

短い休憩をはさみ、松岡享子さんの講演会。
「ワンダ ガアグのグリムについて」。
松岡さんが訳したのら書房のワンダガアグ版のグリムについての話。
データをきちんと使い、誠実で尊敬できる講演だった。

松岡さんは、今まで日本でふつうに読まれてきた「完訳版グリム」の文をまず朗読し、
そのあと、ガアグが書いたグリムを読む。
もう、全然違うのがよくわかる。
好き嫌いはもちろんあるだろうけれど、ガアグの方は
聞く側読む側をおもしろがらせずにはおかないぞという
気合が十分にこもっている。
 グリム兄弟は初版を20代でだし、そのあと70代で亡くなるまで
7回も版をかさねた。
 そしてそのたびに大幅に書きなおした。
グリム兄弟は創作者ではなくコレクターだから、基本的に筋はいじらない。
しかし、さまざまな修飾や消去をいろいろ入れて整合性をさぐっていく。
松岡さんはその書き直しを、読者を喜ばせるための仕事と肯定的にとらえ、
ガアグもその延長線上でさらにおもしろくしようと書き直したととらえる。

つまり、「なんでも古い方が良くて、そのままの話を一字一句正確に子どもに伝えるのが
良いのだ」という考え方の語り手とは、松岡さんは一線も二線も画しているだ。
この夏にやった、ぼくの「耳なし芳一」も、小泉八雲の話の不自然な点に
新しい解釈を入れて編集しなおしたので、そういう仕事に「イエス」と
言ってもらえたようで嬉しかった。
 昔話の語り手は、古い話をそのまま伝えるという伝承者の部分と
しかし、こうしたらもっとおもしろくなるぞというクリエイターの感覚の
両方をあわせもち、そのバランスの上で仕事をしていかなければいけないのだろう。